映像制作のプロが考える「ショート動画」の功罪|子どもたちへの影響を見過ごせない理由
- 清彦 山崎
- 21 時間前
- 読了時間: 4分

「気づいたら30分も経っていた…」
TikTokやInstagramリール、YouTubeショートを見始めると、つい次々とスワイプしてしまう。そんな経験、ありませんか?
私は映像制作会社の代表として、日々企業のPR動画やランディングページ用の動画を制作しています。短尺動画がマーケティングに与える効果の高さは、身をもって実感しています。しかし同時に、この「ずっと見てしまう」仕組みが、特に子どもたちの脳や心にどんな影響を与えているのか、深く考えさせられることが増えました。
今回は、映像制作者の視点から、ショート動画の「功」と「罪」を整理し、私たちがどう向き合うべきかを考えてみたいと思います。
ショート動画がビジネスにもたらす「功」
まず、マーケティング視点での効果は否定できません。
ランディングページに動画を埋め込むと、コンバージョン率が最大86%向上したという調査結果があります。また、動画のあるページでは、ないページと比べて滞在時間が約2.6倍になるというデータも。私たちが1日LP(ランディングページ)制作サービスを行う中でも、動画を組み込んだページの反応の良さは明らかです。
さらに、人間の脳はテキストよりも視覚情報を最大6万倍速く処理すると言われています。動画で見たメッセージは95%記憶に残るのに対し、テキストでは10%。この差は圧倒的です。
中小企業がSNSで情報発信する際、短尺動画は「見てもらえる」という点で非常に強力なツールであることは間違いありません。
見過ごせない「罪」の側面
しかし、ここからが本題です。
98,000人規模のデータを分析した最新の研究では、短尺動画のヘビーユーザーほど「持続的な注意力」が弱く、集中して課題に取り組む力が低下する傾向が示されています。
なぜでしょうか?
短い動画を次々とスワイプする行為は、脳に小刻みなドーパミン報酬を繰り返し与えます。より強い刺激を求めて次々とスクロールする習慣が形成され、結果として「長時間一つのことに集中する力」が損なわれていくのです。
中国の研究では、脳波測定により、短尺動画への依存傾向が強い人ほど前頭前野の実行機能(注意の制御力)や自己抑制力が低下していることが確認されています。
子どもたちへの影響が最も心配
私が最も懸念しているのは、子どもたちへの影響です。
教育現場で講師として関わる機会があるのですが、「長い文章が読めない」「すぐに飽きてしまう」という声を先生方から聞くことが増えました。
短尺動画は「考えなくても見られる」ように設計されています。認知的負荷(考える負担)をかけずに情報を摂取させてしまうため、じっくり考えたり、批判的に捉え直したりする機会が奪われがちです。
研究者たちは、短尺コンテンツの浸透が「批判的思考」「内省的な問題解決能力」の衰退に寄与していると警鐘を鳴らしています。
まだ脳が発達途中の子どもたちが、毎日何時間もこうしたコンテンツに触れ続けることの長期的な影響は、正直なところまだ誰にもわかりません。だからこそ、大人である私たちが真剣に考える必要があると感じています。
映像制作者として、私たちにできること
では、私たち映像制作に携わる者は、どう向き合うべきでしょうか。
弊社では、以下のことを意識しています。
「見てもらう」だけでなく「考えてもらう」設計を心がける
短尺動画の強みを活かしつつも、視聴者が立ち止まって考えるきっかけを作る。問いかけを入れる、詳細情報への導線を設ける、といった工夫です。
クライアントへの啓発も仕事のうち
「バズればいい」「とにかく再生数」という依頼に対して、「それは本当に御社のためになりますか?」と問いかけることも、私たちの役割だと考えています。
子ども向けコンテンツは特に慎重に
学習支援や子ども向けの映像制作では、刺激の強さよりも「考える余白」を大切にしています。
おわりに
ショート動画は、使い方次第で素晴らしいマーケティングツールになります。しかし、その「ずっと見てしまう」仕組みの裏側には、私たちの注意力や思考力を蝕むリスクが潜んでいます。
特に子どもたちを取り巻く環境を考えると、「効果があるから」という理由だけで突き進むのは危険です。
映像の力を信じるからこそ、その影響力の大きさにも責任を持ちたい。
そんな思いで、日々の制作や子どもたちの講義に向き合っています。
御社の動画活用について、「効果」と「影響」の両面から考えてみませんか?お気軽にご相談ください。



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